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ただ一つのことに執着して突き詰めていくことを その人はそう表現した 無農薬リンゴを作り始めて30年 その道のりは私のような青い人間には到底語れるものではないが 死を覚悟するまでにやるだけのことはやりつくした だがリンゴの木は枯れようとしていた ロープを持って山へ入っていったときに見た幻のリンゴの木は おそらく偶然でもなんでもない 私は何の信者でもないが ああ神様が見ていてくれたんだな そう思わざるを得ない出来事だった しかしその人はそんなことすら考える余地もなく ただひたすらにその下の土を掘っては口に含んだりにおいをかいだり 人は一つのことに狂うと本当の奇跡を生み出せるのだ なんの根拠もないし 今の自分には決して出来ない偉業だが、そう確信した 私が今まで読んだ本至上一番の まるで空から真っ逆さまに突き落とされたような衝撃を受けた その人の人生に何の役にもたたないが 手がちぎれるくらいの拍手を送りたい そしてその意思を必ず受け継いでいきたいと 生半可な気持ちではなく思った もうプライドとか見栄とかどうでもいい とにかく信じて突き進んでみよう どうなるかわからないけど どうにかなるだろう 健康な体と少しの食べ物があれば人は生きていける 生きている限りありとあらゆる感動が待ち受けているはずだ その人のように気違いと思われようとも 本当に正しいと思える場所へ進んでいける勇気をもらった 「リンゴの木は、リンゴの木だけで生きているわけではない。周りの自然の中で生かされている生き物なわけだ。人間もそうなんだよ。人間はそのことを忘れてしまって、自分独りで生きていると思っている」 この言葉に到達するまでの軌跡を読むと 今までわかったような気でいたことも 新たな視点で見られるようになった 何よりもすごいと思ったのは木村さんを支え続けた いや、貧乏を我慢し続けた家族だ バブルで浮き足立った日も不景気になっても 貧乏なのは変わらない この家族の支えなしでは守るべき家族がいなくては 木村さんはリンゴをここまでにしなかったはずだ 守るべきものがあるということのすばらしさも同時に学んだ この本はリンゴの本でも農業の本でも木村さんの自伝でもなく 人間と自然の本来のあり方を教えてくれる哲学書だ 信じられないほどドラマチックな小説とも言えるかもしれない
by abekama
| 2008-11-08 00:58
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